工業炉とは

工業炉の役割

1.1 工業炉の役割

産業における原材料あるいは機能要素部品の精製、加工、あるいは仕上げ工程などで所期の物理的、化学的変化を達成させるための加熱装置を一般に工業炉とよぶ。

工業炉は、主として金属工業、一般機械工業、電機・電子工業、ファインセラミックスを主体とする新素材工業、窯業、化学工業、および環境関連産業等で行われる溶解、製錬、各種処理、熱間加工、焼結、焼成、反応用加熱、あるいは産業廃棄物の焼却脱臭などの工程に関与する。

工業炉は上記のように各種の加熱目的に利用され、工業用原材料と機能要素部品の製造工程に欠くことのできない装置で、現代産業の基礎を担うと同時に産業の発展と技術進歩を支えるものとして、その役割はますます重くなってきている。

工業炉は、石油系液体燃料、ガス、電気、石炭、コークスなどのエネルギーを多量に消費するとともに、各種原料資源を用いる装置である。
エネルギー問題、資源の有限性、排出ガスによる環境の劣化が地球規模で論議される現代において、とくに海外依存度の高い我が国の事情から、その節減と有効利用と環境浄化に対応すべき工業炉に課せられた責務は重く、従来の技術の向上にとどまらず、更なる開発と進歩についての要望が増大しつつある。

近年、産業の動向が重厚長大から軽薄短小へと変化するとともに、コンピュータを主体とする制御システムの進歩に伴って、工業炉自体も単体としての利用から生産システムの構成要素として重要視されるようになり、また原材料と機能要素部品の特性のファイン化の要求に対応して、工業炉とその周辺機器の高性能化を図るために構造と制御面での設計技術の進歩と、その利用技術の進歩に焦点が絞られているのが現状である。

工業炉は、各種の工業技術の総合によって完成される。例えば、燃焼機器、耐火断熱材料、金属材料、計測制御装置、発熱体、電源機器など重要な構成材料の有機的な組み合わせによって成り立っており、それに適応した利用技術一ソフトウェアがあってはじめてその使用目的が達成される。

工業炉は、産業の各分野で広範囲に利用され、その種類も、使用エネルギー、構成、機能、所要特性などに応じてますます多様化され、その役割も利用目的に応じて多岐にわたってきている。

1.2 工業炉の分類と形式

現代の炉形式、加熱方式、炉内での材料搬送方式などについて整理分類する。
炉は燃焼工学、伝熱工学、熱力学、流体力学、金属工学、電気工学、材料工学、反応工学などの総合技術によって作られ、かつ、使用される。

したがって、これを一元的に分類することは難しい。分類の目的によって、重点とする因子が異なるからである。炉を分類するに先立って、炉の性格を把握するのに必要な5つの要素がある。

a)被加熱物

炉で加熱されるものの材質,形状,性状,大きさおよび重さ。

b)加熱目的

精製,製錬,圧延,鍛造,熱処理,溶融,蒸留,乾留,脱ガスなど,材料を加熱する目的は多い。その目的に応じて,加熱温度,加熱時間,雰囲気条件,圧力条件,制御因子とその精度などが異なる。

c)操業方式と生産量

1日の操業シフト数,休炉の頻度といった操業条件,月あるいは年当たりの生産計画,また,被加熱物の品種ごとのロット単位といった生産計画,このような値によって,炉がバッチ式になるか,連続式になるかが決まる。

d)熱源

炉の熱源は加熱コストの主要部分を占めており,その工場の立地条件によって熱源コストは異なる。加熱用熱源の選択に当たっては,安定供給と併せて,環境条件についても十分考慮しなければならない。

e)炉の形

加熱される材料の形状や寸法,あるいは加熱目的によって,炉がたて形か横形か円形かといったことが決まるのはもちろん,工場のレイアウト,材料がその工程にくるまでの前後工程とのつながり,場合によっては,工場建屋の大きさや,余裕のあり方によって制約される。

以上の要素はすべての炉の経済性、すなわち償却費、人件費、保守費、環境保全費を含めた操業費に集約され、最も有利な炉が使用されなければならない。
これら5つの要素をもとにして概観すると、産業に用いられているすべての炉を2つの次元で分類することができる。
その1つは、「使用熱源の種類一〉熱の発生方法→被加熱物への熱の伝達方法」と「加熱目的」との関連における次元、すなわち「熱と加熱プロセス」である。
もう1つは、操業あるいは生産形態に関するもので、「操業方式と搬送方式」である。
これら2つで炉を分類すると表1および表2のようになる。

燃焼加熱の場合、直接加熱とは燃焼火炎あるいは燃焼生成ガスが直接被加熱材料に接する加熱方式で、燃焼によって発生する熱がじかに材料に伝達される。
間接加熱は燃焼生成ガスが直接被加熱材料に触れることなく、なんらかの隔壁を介して熱が伝達される場合で、隔壁としては耐熱鋼製あるいはセラミックス製のラジアントチューブ、レトルト、マッフルが用いられる。

電気加熱の場合、直接加熱と間接加熱に分けられる。直接加熱では被加熱物に直接電流が流れることによって加熱が行われ、間接加熱では電気加熱によって発生した熱が被加熱物に移動することによって間接的に加熱が行われる。さらに、発熱方式によって抵抗加熱、赤外線加熱、アーク加熱、誘導加熱、誘電加熱、マイクロ波加熱、電子ビーム加熱、プラズマ加熱などに分けられる。これらのうち、おもに工業炉として使用されているのは抵抗加熱、アーク加熱、誘導加熱、電子ビーム加熱およびプラズマ加熱である。

表2に示すように、生産操業方式から分類すると、連続式とバッチ式とに大きく分けられ、つぎに材料の形に従って炉の形は横かたてかという点で分けられ、さらに処理の方法に応じた材料搬送方式が決まる。

表1 熱源と加熱方式による炉の用途分類

エネルギー源、発熱方式など 炉の用途(例)
直接加熱方式 間接加熱方式
燃料 個体 石炭、コークス
溶解炭素など
精練(鉱石還元)
製鋼(転炉・平炉)鍛造
 
液体 重油
灯油など
圧延 鍛造
焼入れ 焼戻し
焼ならし 焼なまし
焼成 焼付け 乾燥
熱風発生
ラジアントチューブ、レトルト、
マッフルなどを使って
無酸化および光輝熱処理 浸炭
浸炭窒化 軟窒化 塩浴熱処理
ろう付け 焼結 >脱ガス 乾留
蒸留 熱風発生 溶解
気体 天然ガス
LPG・COG
副成ガスなど
廃棄物
(各種燃料を助燃)
焼却(蒸気発生など)  
電気 抵抗加熱 直接通電 圧延 鍛造
パテンティング
ガラス溶解 塩浴処理
黒鉛化 電気ボイラ
金属発熱体 上記の他に
真空熱処理
炭素流動層加熱
赤外線加熱
非金属発熱体
誘導加熱 高周波 急速加熱 表面焼入れ
ろう付け 半導体熱処理
溶解 圧延 鍛造
高純度シリコンの単結晶引上げ
超硬工具の焼結
(黒鉛スリープを加熱)
低周波 溶解 精錬 圧延 鍛造  
アーク加熱 アーク電流が加熱材料を流れる アーク電流が加熱材料を流れない
製鋼 ESR カーバイド製造
フェロアロイ製造
アルミ電解 空中窒素固定
非鉄金属溶解
電子ビーム加熱 高融点金属および高純度合金の
溶解 金属の蒸着
 
プラズマ加熱 製鋼 高融点金属の溶解
鉱石還元
化合物の合成または分解ガス化
 

表2 操業方式と炉形による搬送形式分類

操業方式 炉形
横形 たて形
連続式
(準連続)
(間欠連続)
プッシャ形
コンベヤ形
ストランド形
ボイラ形(液体用)
コンベヤ形
ストランド形
シャフト形
流動層形
ボイラ形(液体用)
バッチ式 プッシャ形
ハンドラ形
台車形
エレベータ形
箱形
カバー形(ベル形)
エレベータ形
ピット形
ポット形(液体用)
転炉形(液体用)